大学(短大含む)、専門学校に加えて、新たに誕生する専門職大学。
進学先を検討する側の高校生や保護者、高校教員、社会人の方々は、これらの選択肢をどう検討すれば良いのでしょうか。
教育内容や就職先などを比べながら、考えてみましょう。

専門職大学の教育内容は、
大学や専門学校とどう違う?
大学の教員は、基本的に研究者。大学は研究者の指導を受けながら、講義やゼミ、実習など様々な授業を通じて学び方や物事への向き合い方、考え方などを総合的に磨き、答えのない問いに向き合う術を身に付けるための教育機関です。
大学には様々な学部・学科がありますが、これらは学問体系ごとに分類されており、学問ごとの考え方や分析手法などを学びます。たとえば文学部なら文学という学問の方法論を、工学部なら工学の方法論を4年間で習得。同じ社会課題について考えるときにも、文学部と工学部では思いつく視点や解決法にそれぞれの個性が出てくるわけです。
常識とされている意見を疑う、より良い社会システムを考える……といったことも、大学の目的。そのため卒業研究など、学生が自分の研究に取り組みながら学ぶ時間も重視されています。
専門学校では、教員の多くが実務経験者です。教えるのは、各職業のプロに求められる知識や技術。現場で即戦力として活躍できる教育を行うのが、専門学校の目的です。教員は現場で経験を積んできた「先輩」として、自身の経験も活かしながら学生を指導します。
大学とは異なり、学生が研究活動を行うことは基本的にありません。職務に必要な知識・技術を身に付けるため実践的な授業、なかでも実習に授業時間の多くが割り当てられています。
学費を抑えながら必要な技術を短期間で身に付ける専門学校がある一方、高度な技術や広い視点の習得を目指したカリキュラムを掲げる学校まで、教育内容の深さや広さ、教育機関は千差万別です。
上記2種類の学校に対し、専門職大学の教育内容はどうでしょうか。
高いレベルの教員や設備・環境を揃え、産業界と連携した実践的な教育によって、高度な職業人を育成する……専門職大学は、そんな学校として構想されています。
実際の仕事で役立つ知識やスキルを学ぶための学校という点は、専門学校に近いと言えるでしょう。少なくとも専任教員の4割以上が、企業などでの勤務経験を5年以上持つ「実務家教員」とすることも現時点で決まっています。また研究活動よりも仕事に繋がる実践的な学習が重視されており、実際に卒業単位の3~4割は企業などでのインターンシップを通じて与えることになっています。
その一方で、決まった技術をただ習得するだけではなく、社会の状況を分析しながら業務全体を見直す、新しい産業を牽引するなど、狭い職務だけにとらわれない視野やスキルを身に付けることが専門職大学の卒業生には期待されています。この点では調査・分析の方法など、大学で教えられている内容に近い教育も一部に採り入れられると思われます。

就職先には
どんな違いが出るの?
教育目的や教育内容と、就職先は密接に繋がっています。
大学卒業者の就職先は、多くの高校生が想像しているほど、実は学部・学科の影響を受けません。医療系や保育系などの専門職養成系学部は別ですが、たとえば文学部の卒業生が、製造業や情報通信業に就職するようなケースは珍しくありません。中には文系学部を出てシステムエンジニアになる方もいます。一方、理工学部の卒業生でも銀行や出版社に勤める方はいます。理系でも進路は技術・研究職だけに限定されず、企画や営業、編集者などとして働いている方だって少なくありません。実際、多くの企業が「四年制大学卒業者・全学部全学科対象」という枠で、広く社員を募集しています。大卒資格によって様々な業界・職種へ就職できるのが大学の特徴であり、強みと言えるでしょう。
これに対し専門学校では、卒業者のほぼ大半が、学んだことと直結する業界・職種へ就職。卒業生の93%が、学んだ内容の関連分野へ就職するというデータもあります(※1)。専門学校では美容師、パティシエ、自動車整備など、具体的な職種・職業を想定したコースが多いことも大きな理由でしょう。学んだことをそのまま就職に活かせるというのは魅力的ですが、逆に言えば身に付けた知識や技術は基本的に、その職業でしか評価されないということです。
なお卒業者全体を母数にした就職率は、大学が66.7%であるのに対し、専門学校は82.3%(※2)。就職活動に対するバックアップにも、専門学校は力を入れています。就きたい職業が具体的に決まっており、着実に就職したいという方なら、専門学校は効率的な選択肢の一つになるでしょう。
専門職大学の就職先はどうでしょうか。専門職大学の教育は、観光業や農業、フード産業、IT産業など、具体的な業界の中で高度な業務を担える人材の育成を目的にしています。各業界の企業と連携した授業も多く、インターンシップの割合も高め。したがって基本的には、各学科が想定する関連産業に就職することが前提となります。学んだことは就職活動でも高く評価されるでしょう。
専門学校よりも、活躍の場面は広く想定されています。たとえば観光業の場合、専門学校では接客やツアーコンダクター、キャビンアテンダントやエアポートスタッフなど、具体的な職種や働く場所・シーンを想定したコースで教育を行う学校が少なくありません。これに対し専門職大学の観光関連学科では「適確な接客サービスに加えて、サービスの向上や旅行プランを企画し、実行できるような人材」など、ひとつの職務だけに限定されずに活躍するイメージが想定されています。観光業界の中でキャリアを積み上げていく上で、専門職大学での学びは役に立つはずです。
専門職大学を卒業して就職する場合、大学よりも業界などは限定されると考えておいた方が良いでしょう。専門学校の卒業生よりも広い視野や、高度なスキルを持っていることが企業からは期待されるはずです。接客や企画など特定の現場でずっと働く……というだけではなく、いずれは自ら新しい事業や業務を創りあげ、多くの方を巻き込んで業界を活性化させていくような活躍が見込まれます。
(※1:文部科学省『学校基本調査』平成20年版より)
(※2:厚生労働省・文部科学省『平成24年度 大学等卒業者の就職状況調査』の推計値より計算)

学費はどのくらいかかるの?
4年制大学の場合、国公立大学ならどの大学・学部でも学費は基本的にほぼ同額です。4年間で約240万円、6年間で約350万円ほどになります。私立大学では分野によって学費が異なり、経営学部や観光学部なら4年間で400万円程度。理工系・情報系では530万、看護医療系なら590万円です。
専門学校では、一般的な2年制の簿記・ビジネス系は約190万円、2年制の情報処理では約220万円、3年制の看護では約230万円と、私立大学に比べれば割安と言えます。
専門職大学の学費は、現時点ではまだ未定です。当然のことながら、学校によって違いが出るでしょう。
なお大学は施設・設備や教員の水準など、教育環境に関する様々な基準をクリアしなければ設置できません。専門学校は、こうした基準が大学に比べて非常に緩やかなため、学校ごとに教育水準はバラバラ。非常に評価の高い専門学校がある一方で、必要最低限の教育にとどまる学校もあると思われます。
専門職大学の設置にあたっては、大学ほどではないものの、国によって様々な基準が設けられる見通しです。充実した学習環境が用意される分、学費はそれなりにかかることが予想されます。必要な学費に対し、自分が求める以上の教育が提供されるかどうか、各校の教育内容をしっかり比較検討することが望ましいですね。

専門職大学は
どんな人に合っている?
ここまでの内容を踏まえて考えてみましょう。
専門職大学は原則として、将来働きたい業界・分野が明確に決まっている人を対象にした学校です。その上で、仕事で役立つことを実践的に学びたい人、専門学校よりも幅広い視点・スキルを身に付けたい人にとっては、専門職大学は合っていると言えそうです。
また前述のように、専門学校は特定の「職種」に就くことを想定しているケースが多いのに対し、専門職大学の卒業生には、各業界で専門業務+αの活躍が期待されています。ただ美容師になりたい、料理人になりたいというだけにとどまらず、「美容師として研鑽を積みつつ、美容業界で新しい事業を興したい」「日本料理を世界展開する際に必要な知識も学んでおきたい」など、事業構想力や国際性を身に付けたプロになりたい方にとっては、専門職大学という選択肢は魅力的だと思います。
別の観点では、こんな言い方もできます。
すぐに役立つことよりも、長期的な視点で役立つ学びを重視するのが大学です。資格の取得や就職活動のサポートにも最近は力を入れていますが、4年間のカリキュラム自体は、学問の習得を目的にしています。そして専門学校は就職時や、就職直後から求められるスキルなど、すぐに役立つことを優先的に学ぶ場。学問的な学びを得たかったら学校とは違う場所で、あるいは社会人になった後に自分で学ぶ必要があります。
専門職大学は就職時、および就職以降の職業人生において役立つ学びを、産業界と連携して行う教育機関だと言えます。仕事のための学びという点は専門学校に近いですが、専門学校よりも長期的なキャリアを見据えて学ぶ場だと考えてみてください。こうしたキャリアイメージに魅力を感じる方にとっては、専門職大学は良い選択肢になるのではないでしょうか。
逆に言えば、将来のビジョンをまだ検討中の方には大学の方が良いでしょうし、まずは費用や時間を抑えて学び、早く現場へ行きたいという方には専門学校が合っている場合もあります。選択にあたって、ご自身が何を優先するのか、じっくり考えてみてください。

進路を考える上でのポイント
専門職大学は、これから始まる仕組みです。したがって企業などの産業界が、専門職大学の卒業生をこれまでの大卒者と同じように評価するかはまだ未知数です。
ただ、現時点で言えることもあります。
前述のように大学というのはもともと広い教養と専門的な内容を学び、研究を通じて人材を育成する場所です。「大学は就職活動のための学校ではない」と考えて教育・研究を行っている関係者は少なくありません。しかし実際には、就職活動や将来のキャリアに役立つ学びを期待して大学進学を検討する高校生やご家庭も多いはず。学生募集に力を入れる大学の側も、オープンキャンパスなどでは、取得できる資格や就職率を熱心にPRしています。
産業界からも大学に対し「もっと社会で役立つ教育をして欲しい」といった要望は以前から寄せられています。大学教育の元々の趣旨と、大学を取り巻く社会環境に少しずつギャップが生じ始めているのです。
こうしたギャップが大学進学後のミスマッチも生んでいます。大学新入生を100人の村に例えたら……というデータがあります。それによれば100人中、12人は中退、13人は留年。30人は就職が決まらないまま卒業し、14人は就職するものの早期退職します。4年で卒業すると同時に就職し、そこで3年以上働いているという方は、たった31人に過ぎません(※3)。大学や専門学校の中退者で、正規雇用に就けているのはたった7%というデータもあります(※4)。
現在、大学進学者の半数程度が奨学金を借りていますが、中退や留年・就職活動失敗などの結果、奨学金の返済が滞り、かえって経済的に追い込まれてしまうケースも社会問題になっています。
名の知られた大学を出ていても、思うようなキャリアを積めていない方は沢山います。専門職大学が高い評価を受けるかはまだ未知数ですが、少なくとも「大卒なら高く評価される」と考えるのは間違いです。「従来型の大学を出ておいた方が将来、得をする場面が多いのでは」と考える方もいると思いますが、そもそも本当に大学での学びを望んでいるのか、4年で卒業できるのか、進学先の環境を主体的に活用して望むような成長を達成できるのか、希望通り就職できるのか、就職先でどのくらい仕事のパフォーマンスを発揮できるのか……といったミスマッチの方が、大きな問題です。専門職大学が構想された背景には、こうした現状もあるのです。
大学、専門学校、そして専門職大学とも、自分で主体的に学ばないのなら、何の力も付かず、学費と時間を無駄にするという点は共通。学校があなたのキャリアを約束してくれるのではなく、あなたが学校のリソースを活用して自分のキャリアを構築していくのである……という点を前提に、各学校の内容をぜひ比較・検討していただければと思います。
(※3)山本繁『つまずかない大学選びのルール』
(※4)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「第3回若者のワークスタイル調査」(2012年)より