2002年
直し屋ベルベルジン
(株)ベルベルジン
ジーンズ愛好家たちの救世主
ジーンズに対する思いは人それぞれだ。履きつぶしてボロボロになったものを処分してしまう人もいれば、何とかしてまた履きたいという思いで修理に駆け込む人もいる。「直し屋ベルベルジン」としてジーンズの修理を手掛ける石井さんは、ジーンズを愛する人たちにとって、いわば駆け込み寺のような存在と言えるだろう。原宿にある古着屋「ベルベルジン」は、その世界では知らない人はいないと言っても過言ではない有名店。もともとそこで販売スタッフとして勤務していた石井さんが、4年ほど前からお客さんのジーンズの修理を行うようになったのがきっかけとなり、2年前に「直し屋ベルベルジン」として修理専門店をオープン。その確かな技術と丁寧な仕事ぶりで、今では修理の順番を待つジーンズが何本も待機している。
趣味に夢中になりながら過ごした学生時代
お兄さんの影響もあり、中学の頃からジーンズに対する憧れを持っていたという石井さん。そしてファッション誌を読んでいるうちに自然と詳しくなっていったようだ。文化では服装科に在籍していたが、「物を作るのが好きだったんですが、服装科に2年間行ってみて、自分は服を作ることには向いていないと思ったんです。もう1年あったらやめていたと思いますね(笑)」。しかし学生時代はスノーボードやバイクなど、夢中になれるものがたくさんあったから楽しかったという。「どちらかというと不真面目な学生だったと思うし、服が一番ではなかったけど、文化での経験は勉強になったし、文化で仲良くなった友達とは今でも毎年キャンプに行っているんですよ」。
試行錯誤しながらもやりがいを感じるように
ベルベルジンには勤務する以前から何度か行っていたという。「前に働いていたリーバイスストアでジーパンを見ながら、レプリカはあるんだけど本物を見たいなと思ったんですよね。だったら一番メジャーなベルベルジンに行こうと思ってやめたんです」。ちょうどそのタイミングでバイトの募集があり応募したのが入社のきっかけだ。販売を経験しながら修理をするようになったが、はじめは本意ではなかったよう。「別の店で裾上げ用の小さなミシンで始めたんですけど、当時はやらされてる感がありました。それから自分なりに色々考え出して試行錯誤しながら4年が経って、今ではこの仕事が嫌いじゃないし、好きなものだからおもしろみを感じるし続けているんだと思います」。
ジーンズに愛を持って接する職人の姿勢
現在の直し屋を始めて2年ほどが経つが、この2年で修理の方法も変わってきたようだ。「アメリカから入ってきたものでも上手かったり下手だったり様々です。日本で直されたものでもかなりの時間がかかっていたり、高かったり。そういったほかで直されたものを見たりしながら自分なりに研究していくうちに、今では安定したものを出せるようになりました」。石井さんにしてみたら、ジーンズを直すよりも普通の服を直す方が難しいと感じるようだ。自身が時間と手間をかけて直すジーンズには愛着がわいてくるという。「かなりひどいものを持ってくるお客さんもいるけど、そういう手のかかるやつほど可愛くなってくるんですよ。儲からなくなってくるけど、それでもちゃんとやってあげたいなと思いますね」。
生み出すのではなく残してあげることが使命
修理するジーンズは、1000円くらいのものから3万円くらいのものまで様々だ。中には繰り返し修理に出しに来る人がいるのだそう。「昔自分がやったものが再修理に来ることがあるんですけど、自分が直したものは見てわかりますね。そういうものは安くやり直してあげたりもします。でもまた直しに来てくれるってことは嬉しいことですよね」。ジーンズの修理を極めつつある石井さんだが、レザークラフトにも興味があり、独学で学んで作った物の数々は趣味の域を超えた出来栄えだ。いつかは自身で制作したレザーアイテムを販売したいと話す。「これでも絞り込んできたんですが、もっと仕事を特化させたいですね。究極を言ったらパーツを作るところから始めたり。ただあくまでもジーパンを作るのではなく、残してあげることが自分の仕事だと思っています」。
※この取材内容は2011年2月時点のものです。
【参照元】文化服装学院HP Next